糸永 真理愛さん
Fifth Consulting 代表取締役
<目次>
各企業さまのニーズに合わせた人事コンサルティング
ー貴社の事業について教えてください。
採用・育成・評価の3領域での人事コンサルティング事業を在タイの日系、その他外資系の企業さまを対象に行っています。
現在はほとんどが日系の企業さまなのですが、外国籍のスタッフや英語がネイティブな社員が増えたことで、少しずつ欧米やアジアのお客さまも増やしていきたいと思っています。
具体的に何をしているかというと、たとえば採用支援をする際には、弊社では包括的な情報を積極的に取りにいくようにしています。
「組織として何を目指しているか」「中長期人事戦略」「各部門に求められるKPIから落とし込まされた各人の役割」「KPIにミートできるような方々をどのような角度から探さなければいけないのか」なども見ます。
どんな方がマッチしていくのか、コンピテンシー(組織で成果が出せる人の特徴やタイプ)を探っていき、そこで成果が出せる可能性の高い候補者をご紹介し、そのあと1年間はKPIに基づいた成果を出せるまでフォローをしていくという特徴があります。
オフィスの壁のガラスにメモをして情報を共有しています
どのサービスを提供するにあたっても、まず打ち合わせでは企業を代表される方の経営戦略、人事戦略、また代表者の生い立ちや価値観を伺い、そこから逸れない提案、付加価値を付けたソリューションを心掛けています。
そうして、各企業さまのニーズに合わせITでは測ることのできない柔軟な対応を心掛けているんです。
ー糸永さんは、今の会社を立ち上げる前からタイでお仕事をされていたんですよね。
はい。バンコクには約3年前に移住し、起業をしてからはもうすぐ2年となります。
元々他の会社で働いていて、バンコクで1年間駐在員として現地スタッフのマネジメントを行っていました。
ータイで起業をされたときは大変ではなかったですか?
今は本当に優秀なメンバーが揃っており組織感が出てきたのですが、最初は想像以上に大変でした。
タイの法律で外国人1人につき4人のタイ人を採用し、かつ200万バーツの資本金を積まなければいけないというルールがあります。
当たり前の話なのですが、できたばかりの名も無き会社に応募してくれる優秀な子は中々いないんです。
タイ人を4人採用しなければいけない法律があるので、雇わない選択肢もなくて。
もちろん英語なんてできないし、言葉が通じない、考えていることも全然分かりませんでした。
そういう方を雇用しているときは想像を絶する大変さでしたね。
何のコミュニケーションもとれないし、恐らくこの仕事にそんなに興味も持っていなかったと思います。
人のコンサルティングをする会社なのに、入れ替わりもすごく激しかったです。
「何を考えているんだろう」「どうしたら動いてくれるんだろう」「どうすればこんなに小さなミスをせずに完成させてくれるんだろう」って、幼稚園の先生になった気分でした。
ー「幼稚園の先生」はすごいですね。それが変わったのは何がきっかけですか。
シンプルなのですが、理解し合える優秀な社員が入社してきてくれたことがきっかけでした。
最初は予算を考えて安いお給料で採用できる人を探していたのですが、安いだけで仕事がまるで前進しないので、お給料が高くても優秀な方を採用したんです。
22歳の新卒の子なのですが、本当に優秀で、その子がいるだけで今までの1年半を1ヶ月で取り戻せるくらいのスピードで仕事が進むんです。
あの頃の社員が4人いても彼女1人に全然かなわないくらい。
彼女ができないことを探す方が難しいです。
ものすごく協調性もありますし、私のサポートをしながら、すぐ後ろを全速力でついてきてくれます。
糸永さん(左)と、優秀な新卒の方(右) 「この会社のこの仕事が好き」とのこと。
朝から夜まで、良いニュースと悪いニュースが飛び込んでくる環境
ー今のお仕事をするなかで、印象に残ったできごとはありましたか。
難しい質問ですね。
会社を立ち上げてから毎日ドラマがあり、ほとんど全ての出来事が強く印象に残っています。
朝から夜まで、色々な良いニュースと悪いニュースが次々に飛び込んできます。
たとえば今朝舞い込んできた悪いニュースは「紹介差し上げた候補者の方が周囲に壁をつくってしまっており仕事にならない」ということでした。
自分から話して打ち解けたり、「サポートできることはないですか?」と自ら仕事を取りにいくなど、なかなかそういった姿勢ができないのでサポートをしてほしいという内容です。ちょうど今それを、チームのスタッフ伝いに対応しているところです。
今朝の良いニュースでいうと、弊社がすごく推していた候補者の方が面談が決まりそう、ということがありました。
そういうニュースが朝から引っ切り無しにずーっと入ってくるんです。
ー朝から夜までニュースが飛び込んでくるのですね!お仕事をしていて不安になることはないですか?
不安になることはいっぱいありますよ。
ただそのときに「不安なので逃げる」ではなくて「だからなにができるか」をメンバーと一緒に考えています。
不安というのは心の奥底にある期待の裏返しです。
不安があるというのは、きっとどこかに自分が「こうだったらいいな」という姿があるからです。
不安に思うことはきっと行動によって解決できることなので、”その不安を払しょくするためにはどういうアクションを今からやっていかなければいけないのか”ということを考えるようにしています。
自分が不安でいっぱいだとメンバーにまで伝染してしまうので、自分の不安は出さないように信頼できるパートナーに相談するなど、自分で解決することを心掛けています。
強い人はやさしさがある人
ー強いですね。糸永さんのその強さはどこから来るのでしょうか。
本当に弱いんですよ(笑)
でも、私は自分が辛いときとか、本当にたくさんのやさしさに支えられたんですね。
誰かのやさしい一言とかやさしい行動とかに。
そのやさしさによって今の私があると思っているので、自分も周囲へのやさしさは一番大切にしたいと思っていて。
人ってやさしいひとが周りに居たら育つし、幸せだし、自分が辛いときってそういうやさしさが足りなかったのかなと思っています。
振り返れば、自分がいっぱいいっぱいで周りにキツい態度をとっていたりとか、言葉尻とかも怖かったり。
余裕があれば考えられるじゃないですか。
「今これを言ったら相手はこういう風になっちゃうかな」とか「じゃあ今我慢して、次もう1回同じことがあったら言おう」とか。
そういうことができないとき、自分のやさしさがなくなったときに、自分も辛くなっちゃったりもするのかなと考えているんです。
やさしさがある人が強い人なのかなと思っているので、そういう意味ではもっともっと強くなりたいなと思いますね。もっともっとやさしく。
そのためには、自分の弱さとか人の弱さを知らないと強くなれないですよね。
弱さを知らなければ、どんなときにその人がやさしくしてくれたかなどにも気がつかないじゃないですか。
だから苦しいけれど、辛い経験をすることも今の自分には必要だなと思っています。
ー日本ではなくタイで働いているからこその喜びや辛さはありますか?
普段実はタイで生活していることを意識させられることって、そんなに感じられないほど居心地の良さを感じています。
オフィス(wework)はインターナショナルで、ものすごい数の国籍の友人がいますし皆国を超えて育ったり仕事をしたりしていて価値観が異なるので、話をしていて飽きません。
現在のオフィス環境はそういった人の面で非常に恵まれていて、若き経営者も多いので刺激し合える喜びは大きいですね。
“How’s your business?”というのが経営者間の挨拶になっています。
辛さは、これもどこにいても同じことなのですが常に自分の小ささや不出来さ、不甲斐さ、そんなものに日々の出来事や仕事を通じて直面することです。
まだまだ私自身未熟で、日々抱えきれない課題の山の中で組織運営をしているので、辛いことも沢山ありますがそんな経験ができることにも感謝しています。
このフィールドでの仕事は天職
ーお仕事をするうえで大切にしていることはありますか?
直感・感覚を大切にすることです。
ITが進化していく中で、人しか持たない心の機微を読むというような、センスというものを磨き続けたいと思っています。
コンサルは、その人の論理に基づいた“解”を渡します。
しかし、気持ちの面で信頼関係がないとその解も渡せません。
どんなに素晴らしいアドバイスでも、正しいことを言われても、その言い方次第では耳が痛いだけじゃないですか。
でもそこに信頼関係があれば「この人は私のことを思ってくれているからこういう風に言ってくれてるんだ」ということが分かっていただける。
解もそうして初めて伝わるものなので。
ー信頼関係が大切なんですね。
はい。やはり信頼にうる行動というのは「その方がご連絡をしてくれたときにどれだけ真摯に対応できるか」だと思います。
素早いレスポンスもそうですし、要求されていることをどれくらい理解して、それに対して行動ができるかではないでしょうか。
相手の方が言ってきたことに対し「本当はこれも言いたかったんじゃないか」や「こっちも心配してるんじゃないか」などを包括的に見て、コミュニケーションを取るということです。
なので、その方の表情や、どのタイミングでご連絡がくるか、どれだけひっ迫してるのか、どのツールを使ってご連絡が来ているかなどに注意をして、優先順位を付けて対応しています。
これはもう考えるというよりも、瞬時に対応していることなので直感なのかもしれません。
ーなるほど。だから直感・感覚を大切にされているんですね。
HRという人の領域で、かつ多国籍の方を相手に仕事をするなかで「英語ではこう言っていても自国の言語や本音だとこういうことが言いたかったのではないか」というセンシティブな部分が多いに隠されています。
国によってハイ、またはローコンテキストという言い方をしますよね。
言葉の持つ温度感や目線、息遣いや姿勢など目に見えないものを含めたやさしいコミュニケーションができるよう、その部分を大切にし続けたいと思っています。
インタビュー中の筆者(左)と糸永さん(右)
ーすごく相手のことを考えて気を配られていますよね。正直、疲れてしまうときはないですか?
人の間に立ってお仕事をしているので、うまくいかないときももちろんあって、疲弊して、また人に会ってその人から元気をいただいて、という日々の繰り返しです。
本当に人が好きなんでしょうね、
なのでこのフィールドで仕事ができるというのは、本当に本当に天職です。
人ってそれぞれストーリーがあって、唯一無二の同じ人っていないじゃないですか。
本当にみなさん天才だと思っているんですね。
その人にしか持っていないすばらしいものが必ずあって。
それを発揮できる場があるかどうか、それをちゃんと見出してくれる人が周りにいるかどうかというのは、自分の試しどころでもあるので。
そういうものを人の中から探してそれを磨き上げて、それを武器にして、自信に変えて、輝いていただけるような仕事をしたいです。
もちろんプライベートでもそうですけど、1人でも多くの方を輝かせることのできる存在でありたいなと思います。
今後のキャリアプランと、海外就職を迷う方へのメッセージ
ー今後のキャリアプランについて教えてください
2つあります。
1つは、今の会社をもっともっと安定したものにしていくことです。
今本当にものすごい速さで仕事をしているので、結構社員も大変だと思うんです。
やっと、少しずつ次のステージに登れるかなというところが見えてきていて。
なので、今いる社員と同じくらい優秀な子たちをもう少し採用して、案件も取って、利益を安定的に取って社員に還元できるように、ということがあります。
非常に優秀なパートナーと社員に支えられてここまで来れたので、まずは彼らに還元できる体制を整えていくためにも、タイでのビジネスを拡大させていきたいです。
今タイに住んで、駆け出しの経営者として生きているこの幸せな瞬間も長い目で見たら人生という旅の中継地点にすぎないので、思う存分壁にぶち当たりながら仲間と一緒に考えて、前に進んでいけたらと思っています。
ーもう1つのキャリアプランは何でしょうか。
もう1つは、立ち上げをしているアパレルブランドのローンチを成功させることです。
ローンチももうまもなく迫っています。
ーアパレルブランドの仕事もされるのですね!どうしてそれをされようと思ったのですか?
モノって、国やカルチャーを越えて色々なところに届けられるものだと思っているんです。
たとえばそのモノの良さやコンセプトも含めて。
国と国になると、国益を考えたときに必ず衝突が必ずあるじゃないですか。
でもモノだとそれを越えられる。
色々な国や色々な土地で継承されてきた特別な素材を、ハンドクラフトで技術を持っていらっしゃる方とともに一緒に作って、海を越えて山を越えて、世の中で活躍する次世代を作り上げる女性たちに届けたいと思っているんです。
そして、どちらのビジネスでも海外展開をしていきたいですね。
ー海外就職を迷っている方へメッセージをお願いします。
迷うということは、関心があるということでしょうか。
であれば、迷っている時間はもったいないかもしれないです。
”海外”も”就職”も、人がつけた言葉です。
実はそこにラインはなくて、自分で壁を作ってしまっているだけ。
どんどん飛び越えて、働くことの幸せを見つけて、好きな場所であなたらしさを発揮しながらご活躍されていくことを応援しています!
キャリアでのご相談があればお気軽にご連絡ください!
Asian Leaders Career (記者 近汐莉)
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